どのようなことをすると時効の利益の放棄になるか

文責:所長 弁護士 寺井渉

最終更新日:2024年06月11日

1 時効の利益の放棄とは

 時効は、一定の期間がたてば法律上借金の支払義務がなくなるなど大きな効果を持ちますが、時効であることを理由に借金の支払義務をなくすことをできなくする意思表示が、時効の利益の放棄です。

 たとえば消費者金融からの借入であれば最後の取引から5年以上たてば、時効であることを法律上正しく主張すれば(「援用」といいます。)払わなくてよくなるのが原則です。

 しかし、時効の利益を放棄すると、その後時効の援用はできなくなります。

2 時効の利益の放棄は、時効完成前は認められない

 先の例で、消費者金融が、借入から1年後に、時効の援用はしません。という書面を作って債務者に署名させれば時効の利益の放棄になるかというと、そうではありません。

 民法146条は、時効の利益はあらかじめ放棄することができないと定め、絶対に時効にかからない債権を作出するなど、借りる人に不利な合意をすることを禁じているからです。

3 時効の利益の放棄は、時効完成後に時効の利益を受けない意思表示をすること

 たとえば、友人から借入をして、最後の返済から11年たち、借りた人が時効に必要な期間が経過しているのを知りながら、申し訳ないと思って時効の主張をしませんという意思を示せば、時効の利益の放棄にあたります。

4 時効完成後に時効を知らずに払ってしまった場合の争い

 では、時効に必要な期間が経過していることを知らずに、分割で返しますなど借金を承認する言動をした場合はどうなるでしょうか。

 最高裁判所の判例は、時効完成後に債務の承認をした場合、相手方も債務者はもはや時効の援用をしないという期待を抱くから、信義則上その債務の時効を援用することは許されないとしました(最高裁昭和41年4月20日判決)。

 これは、時効完成後に一度でも借金を返済すると、時効の援用ができないと解釈することができます。

 しかし、悪質な取立業者は、最後の返済から5年以上たってから、1000円だけでも払うよう借主にしつこくせまり、時効を知らない借主が二度と借金を免れられなくするように悪用されるケースもあります。

 このような悪質なケースでは時効の援用を認めた裁判例もありますので、弁護士までご相談ください。

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